驚きと困惑の芸術品:エラ・タイムピーシーズ プロメテウス(Prometheus)
トゥールビヨンは世界三大複雑機構の一つであり、超絶技巧を駆使したコンプリケーションウォッチは値段も超高額です。しかしエラ・タイムピーシーズ社のプロダクトはトゥールビヨンの常識を覆しました。今回はERA社のトゥールビヨンモデル「プロメテウス」をレビューします。
目次
プロローグ:憧れのトゥールビヨンに触れてみる
幸運にも憧れのタイムピースに触れる機会がありました。
その名をプロメテウス(Prometheus)といい、エラ・タイムピーシーズ(ERA Timepieces)社の手がけるトゥールビヨン搭載モデルです。
今回は複雑機構のトゥールビヨンについて触れるとともに、ERA社のプロメテウスについて使用感をレビューします。
超複雑機構「トゥールビヨン」について
トゥールビヨン(Tourbillon)はフランス語で「渦」を意味します。
開発者はアブラアム=ルイ・ブレゲ氏であり、天才時計師として、また氏の名前を冠した「ブレゲ」ブランドでも有名ですよね。
トゥールビヨンは時刻精度を高めるため、「姿勢差(重力の影響)」を解消する機構として発明されました。
機械式腕時計の宿命「姿勢差」の克服
機械式時計の時刻精度には重力が大きく関係しています。
腕時計は様々な姿勢(向き)で使用するため、角度によっては内部機構に負担がかかりやすく、精度に影響してしまいます。
姿勢による影響、つまり姿勢差を解消できれば腕時計の時刻精度は飛躍的に向上するとブレゲは考えました。
世界三大複雑機構「トゥールビヨン」の開発
姿勢差への対策として「キャリッジの回転」がブレゲの着想となり、従来の腕時計では固定パーツであった「がんぎ車」や「アンクル」などをキャリッジ(カゴ)に収め、キャリッジごと回転させることで重力の平均化に成功しました。
後の時計業界に衝撃を与える偉大な功績です。
あまりに簡単な説明ですが、トゥールビヨンの製造は困難を極めます。
小さなトゥールビヨン本体だけでも150~200個の部品を使い、力加減を少し間違えただけでも部品が破損してしまいます。
限られた熟練職人による超絶技巧のため、トゥールビヨン搭載モデルは1千万円オーバーが常識的な価格となっています。
エラ・タイムピーシーズ社の手がけるトゥールビヨン
トゥールビヨン搭載モデルは超高額な腕時計としても知られています。
しかしニューヨーク発のブランド「エラ・タイムピーシーズ(ERA Timepieces)」は、誰にでも手の届くトゥールビヨンモデルを開発しました。
そして今回、ERA社のトゥールビヨン搭載モデル「プロメテウス(Prometheus)」をお借りし、使用感などをレビューすることになりました。
理想を具現化した創立者
さっそくレビューに移りたいところですが、まずエラ・タイムピーシーズ(ERA Timepieces)社から紹介します。
創立者であるMichael Galarza氏は、かつて超高級時計の販売代理会社で最高経営責任者に就いており、当時から付き合いのあった時計職人の協力を得てERA社を立ち上げることになります。
Michael Galarza氏の目指す腕時計
Michael氏の考えはとても興味深く、「時計の価値はプライスから与えられるものではない。本来誰でも楽に入手できるはず」といったものです。
時間は誰にも公平ですが、時計という"アイテム"になると価値基準が「価格」になっていることへの問題提起であり、最高の技術を少しでも安く、一人でも多くの方に入手していただきたい、との思いが込められています。
理想は現実へ:プロメテウス(Prometheus)の誕生
Michael氏の理想は、トゥールビヨン搭載モデル「プロメテウス(Prometheus)」の誕生によって現実となりました。
プロメテウスは、2018年の先行予約では初月で100万ドルオーバーの実績となり、翌2019年には「ベスト・オブ・トゥールビヨン20」にも選出され、名だたる著名人の愛用ウオッチにもなっています。
新たな胎動は全世界へ
超高額品のため「富裕層の嗜好品」といった印象のトゥールビヨンです。
しかしERA社の手がけるモデルは驚くほどの低価格であり、しかもデザイン・機能は一切犠牲にしていません。
Michael氏の功績は時計業界へ意義ある一石を投じたといえ、新たな胎動として全世界へ広がっています。
究極のコンプリケーションウォッチ:プロメテウス(Prometheus)
プロメテウス(Prometheus)について実際の使用感をレビューします。
今回、手巻き式やオートマティックなど3タイプのモデルをお借りすることが出来ましたので、それぞれの外観や特徴、実際に使ってみた感想を詳しく紹介します。
入手先も紹介するので、ぜひ一度アクセスしてみてください。
トゥールビヨン搭載モデル:プロメテウスの開封
まず付属品となる専用箱からじっくり見てみました。
質感もよくしっかりした箱に入っており、馴染みやすいERA社のロゴマークが目を引きます。
ではさっそく開けてみましょう。
中身の化粧箱は「封蝋」によって保護されていました。
開封前にも関わらず、高級感ある演出に気持ちも昂ります。
少々勿体ない気もしましたが、思い切って開封しました。
専用の化粧箱は上品な光沢を放つピアノブラック仕上げです。
火にまつわる神「プロメテウス」をイメージさせるマークが施され、高級感に溢れた丁寧な仕上げです。
ではさっそく開封し、プロメテウスを堪能していきましょう。
トゥールビヨン搭載モデル:プロメテウス(Prometheus)の外観
プロメテウス(Prometheus)のルックスは高級感に溢れ、溜息の漏れるファーストインプレッションでした。
3つのモデルはいずれもクラシカルなデザインが特徴であり、細かな中空彫刻や滑らかなキャリッジの動きなど、時間を忘れて見惚れるくらい魅力的です。
ではさっそく、各モデルを詳しくレビューしていきいます。
プロメテウス:Titan DLC Automatic Model(ERA-004)
DLCコーティングのケースはマットな質感であり、艶やかなアリゲーターレザーとのコントラストが印象的です。
ゲージタイプのインデックスによりダイヤルは広々としており、トゥールビヨンの動きや美しい中空彫刻、ギアの動きなどを楽しめるモデルです。
しかし、何より注目すべきは驚きの価格です。
価格(Makuakeプロジェクト) | 200,000円(税込) |
ケース径/厚 | 44mm/14.72mm |
ケース素材 | ステンレススティール&DLC |
ベルト素材 | イタリア産アリゲーターレザー |
ガラス素材 | 反射防止コーティングサファイアクリスタル |
ムーブメント | ERA-004 |
重さ | 125g |
防水 | 50m |
Titan DLC Automatic Modelのレビュー:特徴や機能
Titan DLC Automatic Modelは、まず視認性のよさが挙げられます。
蓄光タイプのバトン針はよく目立ち、ダイヤルデザインに埋没することなく浮かび上がって見えます。
時刻確認は全く問題なく、昼間はもちろん夜間など暗所の視認性も良好でした。
9時位置のサブダイヤル(24時間表示)ですが、こちらはERA社のロゴと重なるため見づらいのではないかと思い、針を進めながら位置を変えてみましたが、全く問題ありません。
小さな針なのでむしろ暗所の方がくっきりと浮かび上がる感じです。
実用的な機能であり。ダイヤルデザインも引き立てていますね。
3時位置のサン&ムーンについては、一瞬ムーンフェイズかと思いましたがそうではなく、昼間・夜間の表示部となります。
ダイヤルのアクセントにもなり、遊び心も感じる可愛いデザインですね。
裏側もスケルトン仕様であり、トゥールビヨンの動きを裏側からも眺めることができるなど、どのアングルからも見ても飽きの来ないデザインです。
DLCとはダイヤモンド・ライク・カーボンを意味し、主に炭化水素または同素体から成る物質であり、腐食に強い硬質膜としてケースやラグ部分にコーティングされています。
タフな素材として頼もしく、ブラックケースは引き締った印象にもなっています。
成熟した大人の男性をイメージさせるシックな腕時計といえるでしょう。
プロメテウス:Original Hand/Automatic Model(ERA-004)
ベルトやダイヤル外周は深みのあるマリンブルーであり、スポーティかつエレガントな印象のモデルです。
シルバーケースのため様々なファッションに合わせやすく、デイタイムは躍動感に溢れ、ナイトタイムはドレスウォッチの雰囲気を醸し出す、まさにトリックスター的なトゥールビヨン搭載モデルです。
価格(Makuakeプロジェクト) | 184,000円(税込) |
ケース径/厚 | 44mm/14.72mm |
ケース素材 | ステンレススティール |
ベルト素材 | イタリア産アリゲーターレザー |
ガラス素材 | 反射防止コーティングサファイアクリスタル |
ムーブメント | ERA-004 |
重さ | 125g |
防水 | 50m |
Original Hand/Automatic Modelのレビュー:特徴や機能
Automatic Modelはサークル型のブランドロゴもデザインとして自然に溶け込んでおり、ラウンド型のケースや回転するキャリッジとは相性が良いみたいですね。
ロゴをこれほど自然な形でデザインに取り入れたブランドはあまり見かけないと思います。
ケース素材となるステンレススティールは艶やかな光沢を放つポリッシュ仕上げであり、丸みを帯びたケースフォルムをより一層引き立てています。
風防はフラットなサファイアクリスタルであり、モース硬度はレベル9です。
強化ガラスの硬度がレベル6~7程度ですから、いかに傷つきにくい素材であるかが分かりますね。
野外に持ち出し色々と角度を変えて見てみましたが、あまり反射はキツいと感じませんでした。
風防用のサファイアは合成とはいえ宝石ですから、輝きが強くて見づらいのが本来の性質です。
しかし表面コーティングによって高い視認性を確保していますね。
竜頭(リューズ)は溝が深めに彫られているので明暗がくっきりと浮かび、形状そのものにアートを感じます。
余談ですが、腕時計に限らず海外ブランドは光と影の操り方に非凡なものがあり、例えば高級外車の場合、一般的には地味とされるグレーのボディーカラーでも、プレス一つで立体感やグラデーションを表現しています。
ERA社のプロダクトデザインにこういった思想があるかどうかは分かりません。
しかしムーブメントを支える骨格部分もアングルによって様々な表情となり、芸術的に彫り込まれた文様は昼と夜で異なる趣に変化します。
実用品でありながら、身に着ける芸術品ともいえる腕時計です。
プロメテウス:Handwinder(ERA0002035)
プロメテウスの手巻き式となるトゥールビヨンモデルです。
ここまで触れていませんでしたが、プロメテウスのトゥールビヨンはケース裏側からキャリッジを支える「フライングトゥールビヨン」です。
ケース表面のブリッジで支えるタイプより高度な技術を要求されますが、遮るものがないため機構の動きをよりダイレクトに眺めることができます。
価格(Makuakeプロジェクト) | 162,000円(税込) |
ケース径/厚 | 44mm/12.72mm |
ケース素材 | ステンレススティール |
ベルト素材 | イタリア産アリゲーターレザー |
ガラス素材 | 反射防止コーティングサファイアクリスタル |
ムーブメント | HZ3360A |
重さ | 100g |
防水 | 50m |
Handwinderのレビュー:特徴・機能
プロメテウスの自動巻き式にはERA社のロゴも使われておらず、テンプやアンクルの動きがよく見えます。
繊細なメカのつくりや動きは見惚れるほどであり、職人技を堪能したい方には手巻き式がおすすめですね。
裏側もローターがないため美しい掘り込みや機構全体を堪能できます。
ボタニカルな文様の掘り込みもエレガントな印象ですが、全体のカラーバランスも秀逸です。
軸受となるルビーは自ずと配置が決まり、本来の機能とともにデザインの一部として輝いています。
ネジにはブルータイプと金属本来の色となるシルバータイプがあり、配色バランスはとてもよく、ケース両面とも間延びしたようなスペースは一切ありません。
まさに「技あり」といいたくなるような配置、そして配色だと感じます。
トゥールビヨンの動的な芸術性、随所に散りばめられた静的な美しさは端麗ともいえ、見る人全てをERA社の世界観に引き込むでしょう。
プロメテウス(Prometheus)の使用感
使用感について、まず感じたのは軽さです。
オートマチックモデルの重さは125gであり、腕時計としては標準的な重量ですが、レザーベルト使用のためか、または着用時のウェイトバランスがよいのか、かなり軽く感じます。
Dバックルの着脱もスムースであり、使用感はかなり良いですね。
ローターの回転音も静かであり、目に見えない部分でさえ完成度の高さを感じます。
シンプルな2針タイプのため竜頭(リューズ)は1段引きですが、引き上げや押し戻しの際には「カチリ」と音が鳴り、小気味よさを感じます。
竜頭(リューズ)の回転も丁度よい抵抗感であり、軽すぎず重すぎず、細かなアジャストもストレスを感じることはありませんでした。
お借りした品のためベルトにはクセが付いておらず、こなれた感じもありませんが、直接肌に着けてみるとサラリとした感触であり、素材・仕上げともにクオリティの高さが伺えます。
今回はカラーバリエーションとして3色の替えベルトもお借りしましたが、色合い・質感ともに素晴らしく、何より嬉しいのは着脱が楽な点です。
ラグ近くのピンを指で押すだけで外すことができ、取り付けも簡単です。
目新しいアイデアでは決してありませんが、レザーベルトの楽な着脱は高く評価できます。
革製品はローテーションを組むことが重要であり、レザーシューズと同じく、一日使ったら手入れをして休ませることが理想です。
購入時のベルトをずっと使い続ける人が圧倒的に多いようですが、専用工具が必要など交換の面倒臭さも理由に挙げられるでしょう。
ユーザー目線のアイデアがERA社のプロメテウスには活かされています。
プロメテウス(Prometheus)のレビュー:まとめ
今回3本のプロメテウスをお借りしましたが、全てのモデルに共通して使い勝手のよさを感じました。
もちろん超絶技巧によるトゥールビヨンや芸術的なデザインも素晴らしく、いくら書いてもキリがないくらいです。
しかし特筆すべきはユーザビリティであると考えます。
デザインを追求するあまりに操作性や視認性を犠牲にする腕時計も多くあり、また機構をより複雑化することで技術の高さや独自性をアピールするブランドもあります。
しかしいずれも超富裕層を対象とした高額品ですよね。
見やすいダイヤルや扱いやすい竜頭(リューズ)はもちろん、一般層が購入できる価格設定も一つの使い勝手であると思います。
新時代の幕開け(Makuake):トゥールビヨン・プロメテウスの入手先
現在、プロメテウスは「Makuake」のプロジェクトサイトから購入可能であり、製品仕様などの詳細情報も閲覧可能となっています。
かつて高嶺の花であったコンプリケーションウォッチは、ネクストステージで「幕開け」を待っています。
ぜひ世界最高の技術、そして芸術を手にしてみてください。
エピローグ:誰もが入手できるプロメテウス(Prometheus)
本記事ではタイトルに「驚きと困惑」のキーワードを盛り込みました。
プロメテウスの第一印象は「どんなに安くても数百万円はするだろう」というものでしたが、今回お借りしたモデルは最高額でも20万円(税込)です。
驚きとともに「安さ」への困惑もありましたが、プロメテウスは様々なアイデアの結晶として誕生し、低価格なトゥールビヨンを実現しています。
この記事のライター
Rich-Watch編集部
Rich-Watch編集部では、男性向けアイテムを中心にアイテム・ファッション情報を発信しております。 「Rich-Watchを読んだおかげで、自分の求めた情報に出会えた」という方を1人でも多く増やすことをミッションとして活動しています。
この記事へコメントしてみる
コメントは運営が確認後、承認されると掲載されます。