マルタ十字(ヴァシュロンコンスタンタン)の時計の意味は？詳しく解説！

ヴァシュロンコンスタンタンは、265年以上の歴史を持つ高級時計ブランドです。

時計ブランドとして一貫した歴史を持つという意味では、ヴァシュロンコンスタンタンは世界最古のブランドと言われています。

そのエンブレムは花びらのような形の美しい変則十字マークで、マルタ十字と呼ばれてヨーロッパでは様々な意匠に使用され親しまれています。

マルタ十字は、二等辺三角形の底辺を切り取った、リボンのような太いV字形を頂点部分で組み合わせた十字マークです。

ヴァシュロンコンスタンタンは、このマルタ十字のマークを約140年もの間、エンブレムとして使用しています。

マルタ十字という紋様には、どのような意味があるのでしょうか。

ヴァシュロンコンスタンタンの象徴であるマルタ十字は、どのような意味を持つマークで、なぜ企業のエンブレムとなったのでしょうか。

マルタというと、現代の世界地理ではイタリアのシチリア島の南にある、美しくて小さな島国であるマルタ共和国を指します。

しかし現在、マルタ共和国の旗や紋章にマルタ十字は残っていません。

マルタ十字は、もともと中世ヨーロッパ三大騎士修道会のひとつである、聖ヨハネ騎士団の象徴として使用されていました。

聖ヨハネ騎士団は11世紀に生まれ、聖地巡礼を行うキリスト教信者の守護や聖地防衛のほか、ホスピタル騎士団とも呼ばれ病人や怪我人の治療にも尽力しました。

マルタ十字は騎士団が誕生した、アマルフィの地の紋章だったのです。

11世紀から戦い抜いた聖ヨハネ騎士修道院は、16世紀に窮地に追い込まれます。

オスマン帝国との戦いに敗れ、本拠地を失った聖ヨハネ騎士団は、当時は王国だったシチリアを頼り、その一部だったマルタ島に移ります。

本拠地をマルタ島に移した聖ヨハネ騎士団は、マルタ騎士団と名を変え、彼らが使用していたアマルフィの紋章もマルタ十字と呼ばれるようになったのです。

マルタ十字の意匠には、8つの角があり、それは8つの美徳を表しています。

実はマルタ騎士団は、現代でも存在しており、イタリアのローマにあるマルタ宮殿を本拠地として治外法権を持ち、外交も行っています。

現在もマルタ十字をマークとして使用しており、軍隊ではなく医療機関として、マルタ十字の8つの美徳を基本理念として活動しています。

マルタ十字はヨーロッパ社会において、長い年月にわたり非常にメジャーな十字マークのひとつとして認識されてきました。

ヴァシュロンコンスタンタンは、当時のムーブメント部分に使用されていた部品がマルタ十字によく似ていたことから、社章として商標登録をしたと言われています。

マルタ十字の8つの美徳も、企業ブランドの目指すものとなっているのでしょう。

ヴァシュロンコンスタンタンでもっとも人気の高いモデルのひとつとして、長年トップに君臨し続けているのがオーバーシーズシリーズです。

海の向こうという意味の名を持つオーバーシーズシリーズの特徴のひとつが、ちょっと変わった形のベゼルですが、実はこのベゼルは、マルタ文字をモチーフにしているのです。

ヴァシュロンコンスタンタン222モデルは、1977年にヴァシュロンコンスタンタン操業222年を記念してデザインされた記念モデルになります。

高級スポーティモデルで、ダイバーズウォッチやクロノグラフのようにベゼルが装着されており、またマルタ十字があちこちにあしらわれているのが特徴です。

1977年に生まれた222モデルこそ、オーバーシーズの原型と言われています。

1996年に、ブランドの顔ともいえるオーバーシーズが発売されました。

1977年に発売された222を引き継いだスポーツモデルで、ベゼルも特徴のひとつとして残されたデザインとなっています。

また222は夜光塗料を用いたインデックスや反射防止サファイアガラスなどを使用していましたが、オーバーシーズも視認性の高い機能的なモデルです。

ベゼル部分は222では普通のダイヤル模様でしたが、アレンジされて全体的にマルタ十字を感じさせるデザインが特徴です。

またリューズのトップ部分や文字盤、モデルによってはメタルブレス部分にもマルタ十字を彷彿とさせる形が組み込まれています。

ヴァシュロンコンスタンタンのオーバーシーズシリーズの中でも、マルタ十字を意匠としてデザインの中に活かしているモデルをご紹介します。

ヴァシュロンコンスタンタンオーバーシーズフィフティーシックスは、他のシリーズよりも強くマルタ文字を意識したデザインを持つモデルとなっています。

中でもフィフティーシックストゥールビヨンは、文字盤に大きなマルタ十字をかたどった部品と、内部のメカニズムが見える窓のあいた非常に美しい構造です。

いつまでも見ていたくなる、そんな不思議な魅力を湛えています。

トゥールビヨン以外のフィフティーシックスにも、実はケースのラグ部分にマルタ十字が隠されています。

ラグとは時計をベルトに固定するための足のような部分です。

フィフティーシックスのラグは、よく見るとVの字のようになっているのですが、ここにマルタ十字が隠されているのです。

ヴァシュロンコンスタンタンのフィフティーシックスは、1950年代アンティークの ref. 6073 がおおもとになってデザインされています。

ref.6073の4つのラグ部分は、エレガントな曲線を描くVの字になっています。

このV字はそれぞれマルタ十字の枝部分になっており、頂点をくっつけることでマルタ十字になるように工夫されているのです。

ヴァシュロンコンスタンタンではマルタ十字を象徴的に使用した ref.6073 をはじめ、そのデザインを引き継ぐフィフティーシックスを今も製造しています。

また島を本拠地に勇敢に戦った聖ヨハネ騎士団のように、海をモチーフとしたオーバーシーズにもたくさんのマルタ十字があしらわれていることからもわかるようにマルタ十字は、ヴァシュロンコンスタンタンの象徴であり、誇りなのです。

2020年11月22日調査