音叉時計って何?仕組みや魅力、歴史的モデルを紹介
音叉時計という、クォーツでも機械式でもない”第三の時計”をご存じでしょうか。チューニングなどに使う音叉を使った、とても珍しいシステムの時計です。今ではスタンダードではなくなりましたが、不思議な魅力に今でもファンがいます。今回は音叉時計について紐解きます。
目次
音叉時計って何?美しい音色に魅了される
音叉時計とは、今ではほとんど見ることが無くなった、幻のムーブメントを持つ腕時計です。
音叉時計にはいくつも特色がありますが、ファンが愛してやまないのはなめらかな運針と、特殊な動作音です。
音叉で動く音叉時計とは、どんな時計なのでしょうか。
音叉時計とは?
音叉は、みなさんも一度は目にしたことがあると思います。
音楽の世界で使用するもので、叩くと一定の音を出すため声や楽器のチューニングなどに広く使用されています。
ボーカルグループのゴスペラーズではいつも北山陽一さんが持っている音叉が、どのように時計に組み込まれているのでしょうか。
音叉をタイムベースとして用いる時計
時計は、何らかの振動数など”タイムベース”と呼ばれる基礎を利用して、正確な時間を刻むように設計されています。
音叉時計のタイムベースは、英語でチューニングフォークと呼ばれる音叉の正確な振動数(1秒360回)です。
音叉時計のシステムは、スイスのバーゼル出身の技師、マックス・ヘッツェルが世界で初めて開発したものです。
ヘッツェルは、今でも時計ブランドとして知られるブローバ社のスイス工場技師で、1960年に音叉時計を世に送り出しました。
当時は大変画期的な発明だったのです。
従来の機械式時計や電磁テンプ式時計より高精度
音叉時計は、従来の機械式時計や電磁テンプ時計よりも高精度で、日差±2秒という正確さを誇りました。
ゼンマイを巻きあげる機械式時計や、電池の力でゼンマイを巻く電磁テンプ時計は、日差±10秒~20秒が一般的です。
音叉時計の精度に人々が驚いた理由が分かります。
音叉時計は独特な音色
音叉時計は、時計の中に小さな音叉が組み込まれています。
同時に組み込まれているコイルに電圧をかけることで、音叉が振動し、1秒間に360回という正確な振動によって時間を刻みます。
常に音叉が振動しているため、耳を近づけるとキュイーンという独特な作動音が鳴っていることが分かる点も、音叉時計ならではの特徴です。
クォーツの普及で姿を消す
音叉時計は1960年代の時計業界を沸かせましたが、1969年にSEIKOがクォーツ時計の先駆けとなるモデルを発表します。
安価で高精度な時計が作れるようになったことで、時計業界には”クォーツショック”と呼ばれる技術革新が起こりました。
1970年代から始まったクォーツショックによって、独特な機械音を持つ音叉時計はほとんど姿を消しました。
しかし十数年間は、音叉時計は並ぶものの無い高精度時計でした。
音叉時計はNASAでも採用され、実に50回近い実験で宇宙にも旅立っているのです。
世界初の音叉時計ブローバ「アキュトロン」とは?
音叉時計は、スイスに工場を持つアメリカの時計ブランド、ブローバ社に所属していた、マックス・ヘッツェルによってこの世に生み出されました。
世界最初の音叉時計は、Accuracy(精密)とElectron(電子)という言葉をミックスして、アキュトロンと名づけられます。
ブローバ社は、現在でも音叉をエンブレムに使用しています。
ブローバ「アキュトロン」の特徴
- 音叉を組み込んだムーブメント
- ゼンマイやテンプを使用せずに動く
- 機械式時計ではありえなかった高い精度
- 音叉が振動する時の音が聴こえる
- 音叉が見てわかるスケルトン文字盤
音叉時計アキュトロンは、音叉をはじめ水銀電池や電磁コイル、トランジスタ回路などを搭載しています。
電磁コイルに電池で電圧をかけると音叉が振動し、それが運針の動力に変わるというシステムです。
機械式時計のようなゼンマイやテンプは使用しません。
アキュトロンは高い精度ゆえに月へも持ち込まれ、計時装置アキュトロン・タイマーとして設置されました。
キュイーンという振動音も、特色のひとつです。
アキュトロンの登場は、電池で動く時計の技術を飛躍させ、時計の歴史を塗り替えたとも言われています。
さらにブローバのアキュトロンは、文字盤がスケルトンになっているモデルもあり、実際に表から音叉などの機構が見えます。
文字盤がスケルトンになっているアキュトロンスペースビューは、当時大変注目を集め、今でもファンの多いデザインです。
ブローバ「アキュトロン」の口コミ
現在ではヴィンテージウォッチとして愛されています。
万人向けの腕時計というよりは、時計の専門家や時計に詳しい好事家、コアなアキュトロンファンがこだわりを持って入手しているようです。
特に時計の専門家にとって、数ある音叉時計の中でもアキュトロンは特別な存在になっています。
音叉時計はなぜ時刻がずれるの?
音叉時計は、機械式時計と比較すると高精度です。
しかし、状況によっては時間が遅れてしまったり、進んでしまったりすることがあります。
調整が必要ないほど高精度ということで、竜頭(リューズ)のないモデルもあるほどの音叉時計でも、時間がずれる理由は何でしょうか。
音叉時計が遅れる理由
音叉時計が遅れる理由としては、音叉振動の周波数が低くなっている場合や、オイル切れ、電池切れなどが考えられます。
特にアンティーク時計の場合、オイルが劣化して繊細な部品に影響を与えやすいため、一度オーバーホールに出してみましょう。
音叉時計が進む理由
音叉時計には、もともと水銀電池が使用されていました。
しかし近年では電池の水銀ゼロ化が進み、酸化銀乾電池などが腕時計用のボタン電池として使用されるようになっています。
50年も前に開発された音叉時計に使用されていた水銀電池と、現在のボタン電池では若干の電圧差が生じます。
最近のボタン電池と、音叉時計にもともと使用されていた水銀電池の電圧差は、音叉振動に影響を与えることがあります。
電圧差の影響で音叉振動が大きくなった場合、通常よりも歯車を飛ばしてインデックス車という部品を送ってしまうのです。
結果的に、針が先に進んでしまいます。
音叉時計の欠点「姿勢誤差」
音叉時計には、姿勢誤差という欠点があります。
平置きした状態であれば、いつまでも正確に時間を刻み続けますが、着用してさまざまな方向を向かせると時間に誤差が生じます。
ギアトレインの欠陥や電子部品の経年劣化が原因で起こり、1日に数十秒、大きな誤差だと数時間狂うことも起きるのです。
音叉時計はアンティークで、今では手に入りにくい部品も少なくない、希少な時計です。
手に入れたら信頼できる専門店に持ち込み、オーバーホールをしてもらって時間の調整もお願いすると良いでしょう。
非常に繊細なので、自力での調整はおすすめできません。
音叉時計の歴史的モデルを紹介
音叉時計はブローバ(BULOVA)が発祥ですが、他のブランドでもその技術を取り入れて開発を行っていました。
今ではほとんどの時計が機械式時計やクォーツムーブメントになってしまいましたが、音叉時計を収集しているファンは少なくありません。
主なブランドの音叉時計をご紹介します。
オメガ 音叉時計
オメガの音叉時計は、オメガコンステレーションエレクトロニックという商品名で、エレクトロニックが音叉使用を示しています。
製造・販売期間が大変短かったということもあり、希少なアンティーク腕時計として扱われています。
スピードソニックというクロノグラフも存在します。
オメガ 音叉時計の魅力
オメガコンステレーションエレクトロニックは、ブローバが開発した音叉機構を搭載し、独特の「キュイーン」という動作音も健在です。
また音叉時計ならではのなめらかな運針も、ファンたちの心を鷲掴みにする大きな魅力の一つと言えます。
クロノグラフのオメガスピードソニックは、通称ザリガニ(ロブスター)と呼ばれる、変わったブレスの形状が特徴です。
スピードソニックは全体的にメカニカルなデザインで、ブレスレットの先端がシュッと細くなっているスタイルが魅力になっています。
なめらかな運針、動作音とともに宇宙を感じさせる存在です。
IWC 音叉時計
IWC(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)は、ドイツのマイスター技術とアメリカの合理性を持つ、スイスのブランドです。
IWCの音叉時計もエレクトロニックと呼ばれており、文字盤にも記載されています。
中古市場にもなかなか出てこない、大変希少なモデルです。
IWC 音叉時計の魅力
IWCのエレクトロニックは全く違った風合いを持った腕時計で、たる型のケースと上品なインデックスが特徴です。
ケースを開けると、音叉を使用したキャリバー150が見えます。
一般的には使用する人が見ることのないムーブメントの周辺には、コート・ド・ジュネーブという美しい縞模様が施されています。
さらに、オーバーホールに出したときに時計職人しか見ることのないケース裏にまで、ペラルージュ模様というウロコ模様が打たれています。
シンプルな文字盤からはうかがい知れない、こだわりぬいた細部への工夫も、IWCの時計ならではの魅力のひとつです。
ドイツのマイスター魂が込められた細工の妙でしょう。
IWCのダ・ヴィンチ仕様のエレクトロニックは、全体がゴールドという極めてゴージャスな造りになっています。
いずれのエレクトロニックも、音叉時計ならではの機械音と、なめらかで途切れることのない運針が特徴です。
シチズン 音叉時計
シチズン(CITIZEN)は日本が誇る時計メーカーのひとつですが、実は2008年に音叉時計の元祖であるブローバ社を買収しています。
それ以前より、シチズンとブローバは共同で日本国内に会社を置き、音叉時計の開発・販売を行ってきました。
日本において、シチズンは音叉時計販売の先駆けと言えます。
シチズン 音叉時計の魅力
現在ではブローバ社を傘下に置くシチズンですが、もとはブローバ社と共同でオリジナルと言える音叉時計を開発・販売していました。
シチズンが手掛けた音叉時計は、シチズンハイソニックと名づけられ1971年に発売、日本初の音叉時計として注目を浴びます。
月差±1分という、素晴らしい精度を誇りました。
テクノス 音叉時計
テクノスはスイスの有名な時計ブランドのひとつです。
テクノスの音叉時計は、モサバと呼ばれる音叉機構を搭載したムーブメントを使用しています。
1960年代、テクノスはモサバをスイスの様々な一流ブランドへ提供していました。
テクノス 音叉時計の魅力
テクノスが誇るムーブメント、モサバは、”モントル・サン・バランスエール”(バランスエール、つまりテンプがない)という言葉の略です。
テンプを必要としないという名のムーブメントは、テクノスが自社の音叉時計機構に抱いていた自信の表れと言えるでしょう。
モサバは搭載している時計の代名詞にもなっています。
テクノスの音叉時計の大きな魅力のひとつは、アンティーク時計としては珍しいスケルトンバックです。
透明なケースバックからは、音叉の存在も確かめられます。
ケースバックからのぞくメカニカルな顔や動作音、優雅な文字盤やなめらかな運針の意表を突いた組み合わせも、魅力的です。
音叉時計で時計が動く音を楽しもう
音叉時計は、今ではアンティーク時計として、もしくは音叉時計誕生記念のリバイバル品としてのみ流通する、過去の時計のひとつです。
しかし独特な機械らしい動作音や、音叉を組み込んだ非常に珍しいムーブメントなど、今でも多くのファンを魅了してやみません。
時計の歴史にすい星のように現れた、輝ける存在です。
この記事のライター
Rich-Watch編集部
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